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1/8 ポーランド

終着駅は始発駅

 負の世界遺産に行ってきた 

2004年12月

 その時、薄い曇り空が割れ、神々しい光が射し込んできました。私の隣で一緒にそれを見ていたおじいさんは「世界は、あぁ、なんてきれいなんだろう」と言いました。そして、私とおじいさんと、16名、銃口で背中を突かれながら、ガス室へと入ってゆきました。1944年アウシュビッツ。

 数分間か数十秒、次に死ぬ彼らにとっては、おそらく濃厚な時間、美しい光景であったはず。

 小説なのだが、収容所の生き残りの人の証言をもとに書かれたそうで。その美しい風景を見たという一瞬はなんだったのか、極限の絶望のただ中で、美しいと思えた人の心とはなんなのか。小説なのだが、そういう事を考え出せば、夜から2日後の夜の3日間くらいは没頭できる。

 なんだか、生を考えたくて「これは、旅に出よう」と思った。ひとつの街しか考えに浮かばなかった。クラコフへの航空券を買った。悲しみに触れる寂しい旅になると予測はついたので、一人で出掛けた。

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