最後に訪れたタプロム寺院。

少し雨が降り、緑が鮮やかに栄えていた。屋根の上にガジュマルの木が。

廃墟になった建物の屋根に、種が落ちた。雨が降って、太陽が照って、芽が出て、根が這って。

人間の手の及ばぬ忘れられた場所で、樹齢数百年。

重く隙なく組み上げられているはずの石の間に、根が入り込む。

考えもつかない植物の生き様。押しつぶしているようにも、つなぎ止めているようにも見える。

この森はまだゆっくり成長を続けていて、一年に数センチづつ廃墟の遺跡を支配してゆくのだろう。

各先進国が協力し『修復』しているアンコール遺跡郡。木々に飲み込まれた寺院を再建するべきか、発見した時の状態としてこのままにするか、タプロム遺跡に対する結論は『据え置き』だが、自然は据え置きできるはずもない。

危険な崩壊が進んで立ち入り禁止になるのだろうか。入れる場所を仕切る鉄冊などがついたら嫌だなぁ。

私たちの文明はあと何年つづく?一粒の種は何年生きる?私はあと何年生きる?一本の木を何分で切り倒す?

忘れ去られた年月に何代もの人間が生まれ変わって、時代が巡り、私はやっとこの地に訪れたのだけど。

傲慢な研究者、気侭な観光客、もう一度みんな忘れ去って欲しいような場所。

放っておいてほしい。そこは、忘れられない場所でした。